2019.12.11
日本を代表するデザインアワード「グッドデザイン賞」。この受賞作品の展覧会「グッドデザイン神戸展 2019」が、11月22日(金)~12月8日(日)が開催されました。
見た目の美しさだけでなく、「暮らしや社会をよりよくする活動」までカバーするのがこの賞の大きな特色。そのため、受賞作は製品だけでなくシステムやサービスまでいろいろ。会場には30数点のイノベーティブな作品がずらりと並びます。
2018年に続いて、神戸で2回目の開催となる「グッドデザイン神戸展」。東京以外では唯一のグッドデザイン展です。
2019年度のグッドデザイン大賞に輝いたのは「結核迅速診断キット」(富士フイルム)です。医療設備があまりない地域でも、その場で結核が診断できるというキットで、すでに発展途上国の医療現場で使われているそう。ひと目で使い方が分かるシンプルなデザインもさすがです。
このほか、交通手段の少ない地域の住民やお年寄りがスムーズに移動できる交通サービスや、「防災」をテーマにした作品が多いのも、現代という時代を反映していて、興味深いところです。
グッドデザイン大賞の「結核迅速診断キット」(富士フイルム株式会社)
展覧会に関連して、11月30日(土)には、トークセッションも開催されました。
タイトルは「兵庫のグッドデザイン」。地元・兵庫県内でグッドデザイン賞を受賞した3者が集い、語り合いました。
トークセッションの会場はデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)。トークは70人以上の聴衆で満席に。
ひとつめの受賞作は、マッチのようにシュッとこすれば火がつくお香「hibi 10MINUTES AROMA」です。販売元は神戸マッチ株式会社。その名の通り、兵庫県の地場産業であるマッチ製造を長く手がけてきた会社です。しかし、マッチの需要は1970年代をピークにどんどん減ってしまい、大きなピンチを迎えます。そこで3代目の嵯峨山さんは「たとえマッチがなくなっても、擦って火をつける行為は未来に残したい」と考え、同じ兵庫県の地場産業である「線香・お香」のメーカーとタッグを組み、マッチとお香を合体させた、このユニークな商品を考案したのです。これが、マッチになじみのない世代にも受け入れられて大ヒット。今や取扱店舗は国内400店舗以上にのぼり、世界30カ国に出荷されています。
着火機能付きお香「hibi 10MINUTES AROMA」(神戸マッチ株式会社)。取扱店舗は国内400店舗以上、世界30カ国に出荷されています。
2つめは、神戸に本拠を置くベビー用品メーカー、株式会社ファミリアのロングセラー商品「打合せ半袖肌着」です。着物のように左右を打ち合わせるデザインは、赤ちゃんの成長に合わせてサイズを調整するための工夫。今ではおなじみですが、最初に考案したのが同社だったとは驚きです。ふんわりした手触りを守るために、今も、古い機械でゆっくり編み上げているのだそう。社長の岡崎さんは「愛情を込めて赤ちゃんを育みたいという願いを込めた創業当初の商品が、改めて評価されたことが本当にうれしい」と話します。ファミリアでは現在、このような定番商品を守り続けると同時に、新たなチャレンジも始めています。キーワードは「最初の1000日間」。「赤ちゃんがお母さんのお腹で過ごす270日と2歳になるまでの730日を合わせた1000日間は、人間が爆発的に成長するとき。この期間にフォーカスして、子どもの可能性をクリエイトしたいのです」と岡崎さん。伝統を大切にしつつも未来をめざす決意が熱く語られました。
「打合せ半袖肌着」(株式会社ファミリア)
タグと縫い目を外側に仕立て、赤ちゃんの肌にも優しい
モノだけでなく、取り組みも受賞しています。それが3つめの受賞作「ひょうごふれあいランニングパトロール」です。これは、兵庫県警が中心になって結成された「ひょうごふれあいランニングパトロール活動推進運営委員会」が推進する新しいボランティア活動で、市民ランナーがおそろいのTシャツで街を走り、声かけを通じて防犯につなげるというもの。スタートからわずか1年半で500回以上も続いていて、全国から視察も相次いでいます。プロジェクトの発案者である平田さんの「兵庫県は阪神・淡路大震災で災害ボランティアの力を借りて復興したまち。その兵庫から新しいボランティアを発信できたことがうれしいです」という言葉が印象に残りました。
受け継いできたものを守りながら、時代のニーズにこたえ、新しい価値をつくっていく──。そんな「デザイン」の力に改めて気づかされました。
トークでは、デザインをめぐってさまざまな話題が飛び出して、満員の観客もうなずきながら話しに聞き入りました。
「hibi」を販売する神戸マッチは、その名の通りマッチ製造を長く手がけてきた会社。しかし1970年代をピークに需要がどんどん減ってしまい、大きなピンチを迎えます。3代目の嵯峨山真史さんは「たとえマッチがなくなっても、擦って火をつける行為は未来に残したい」と考え、同じ兵庫県の地場産業である「線香・お香」のメーカーとタッグを組み、この商品を生み出したのです。
神戸マッチ株式会社 代表取締役 嵯峨山真史氏
ファミリア社長の岡崎忠彦さんは、これからの事業デザインを情熱的にトーク。「赤ちゃんがお母さんのお腹で過ごす270日と、2歳になるまでの730日。ファミリアは、人間がものすごく成長する1000日間にアプローチして子どもの可能性をクリエイトしたい。アパレル企業からライフスタイル企業への進化をめざしています」。そんな言葉に未来への希望を感じました。
株式会社ファミリア 代表取締役社長 岡崎忠彦氏
兵庫県警本部生活安全部の平田雅義さんの「兵庫県は阪神・淡路大震災で災害ボランティアの力を借りて復興したまち。その兵庫から新しいボランティアを発信できたことをうれしく思います」という言葉も印象的でした。
兵庫県警本部生活安全部生活安全企画課課長補佐 平田雅義氏
受け継いできたものを守りながら、時代のニーズにこたえ、新しい価値をつくっていく──。そんな「デザイン」の力に改めて気づかされました。