2020.06.30
2020年6月11日に開催された CROSS2020 vol.1。
神戸セジョン外国法共同事業法律事務所の崔舜記氏をゲストに招き、発注者も受注者も本来は知っていなければいけない請負契約と著作権について教えて頂きました。
クリエイティブとビジネスが交差するトークイベントCROSS、2020年の第1回目は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、オンラインで開催されました。
今回テーマとなったのは、「請負契約と著作権」。ゲストは、神戸セジョン外国法共同事業法律事務所の共同代表弁護士の崔舜記先生です。請負契約も、著作権も、企業とクリエイターの受発注に1番関わりの深い法律です。これがきっかけとなり、トラブルになることもしばしば。そこで、崔先生に、これらの法律について、どんな注意点があり、どのような点に気をつけたらいいのかレクチャーしていただきました。崔先生の明るいトークで、リズムよく講義が進んで行きました。
まず、請負契約とは、「ある仕事の完成」と「その結果に対して報酬を支払うこと」と民法では定められています。請負契約というと、法律用語で難しく聞こえるかもしれないでが、内容は至ってシンプル。例えば、ウェブサイトの制作やキャラクターの制作をお願いして、それに対して報酬を支払うことです。
請負契約でトラブルがあった時、契約書を作っていない場合は、民法の定めに沿って問題が解決されます。
ここからは崔先生に、請負契約が民法でどのように定められているのか、ご説明いただきました。
民法において、請負契約をする際、仕事の完成と支払いは同時に起こると定められています。つまり、契約書を作らなければ、制作物が完成するまで代金は支払われない、ということです。
納期に遅れたり、代金の支払いが遅れたりした場合には、完成の請求や代金支払いの請求ができると、民法には書かれています。もし、催促しても応じない場合は、契約を解除することも可能です。さらに、納品が遅れたことで損害が発生している場合は、損害賠償の請求もできます。例えば、あるイベントの開催を予定していて、そのために大きな彫刻を発注したとします。彫刻がイベントに間に合わず、開催できなかった場合は、そのイベントが開催されていた時に得られたはずの利益を、損害として請求することができます。
何らかの理由で請負人が仕事を完成できなくなった時、例えば、天災などが原因で、受注者(請負人)に原因がないのに、制作物が完成しなかったときです。
民法では、その途中までの制作物で、発注者が利益を得ている場合は、請負人は出来上がった分の仕事の報酬を請求できると定められています。
また、発注者は、請負人が制作物を完成していなくても、いつでも発注を解除することができます。その場合においては、請負人に対して、制作してもらった分の損害を賠償する必要があります。
例えば、「〇〇紙を使ってパンフレットを作って欲しい」と依頼したのに、△△紙を使ったパンフレットを納品された時。この場合、発注者は請負人に対して、やり直しを要求することができます。もし、請負人がそれに応じない場合は、その分の支払いを減額することや、損害賠償、契約の解除なども可能です。
ここまで、民法における請負契約について説明しました。このように、ある程度は、民法上で請負契約について定められています。しかし、崔先生は「契約書を作ることは非常に重要です!」と繰り返します。民法では、個別に起こるトラブルに対して対応しきれないからです。また、契約書を作ることで、トラブルの防止にも繋がります。
契約書を作ると、個別の合意によって、民法の規定とは異なる定め、つまり、制作物やクライアントによって、契約を個別にカスタマイズできます。また、契約書を作ることで、何をすべきなのか、何をしたらいけないか、トラブルが起こった際の対処法などを明確化できます。基本的には民法に沿って契約書は作られますが、民法ではカバーしきれないところを、個別の契約書で補うことが必要です。
まず1つ目は、「仕事内容、業務範囲があいまい」ということ。あいまいな契約が原因で、納品した作品の修正や追加業務が多数求められるトラブルが考えられます。個別の契約書で、「仕事の完成」とは何かを、個数やページ数など具体的に明記しておきましょう。
2つ目は、「報酬の定めがあいまい」ということ。例えば、口頭で出来高払いだった支払いが、払われなくなった時にどうするか。または、制作にかかった実費をいつ支払うかなどについて。これらは民法に書かれていないので、契約時に確認が必要です。
3つ目は、「トラブル時の取り決めがない」ということ。納期や支払いが遅れた時にどのように対応するか、民法にも定められていますが、これはあくまで民法の定め。両者にとって、この対応がわからないまま制作を進めるのは不安が大きいです。お互いが安心して仕事を進めるためにも、トラブルが起こった時のことを話し合いましょう。
4つ目は、「作品の権利関係があいまい」ということです。これは、著作権に関わる問題です。これも、契約書に書くべきトピックの一つですが、次の「著作権」の章で詳しく見ていきます。
契約時に起こりうるトラブルが分かったところで、契約書とは何かを説明しました。
契約とは、意思表示の合致だけで成立します。つまり、口約束でも成り立ち、必ずしも契約書を作る必要はないということです。
契約書がなくても請負契約は成立しますが、契約書をつくるべき理由があります。まず、お互いの権利や義務が明確になります。2つ目は、民法とは異なる定めができます。3つ目は、トラブルが起こったときの証拠になります。
ここからは、実際の請負契約書のサンプルを見ながら、契約するポイントについて説明しました。
前半の締めくくりとして、崔先生は、請負契約について、4つまとめを紹介しました。
まず、契約にあたっては、お互いへの配慮が必要ということ。
一方に不利な契約からは、良い作品や仕事は生まれません。お互いに安心して制作を進めるためにも、事前に双方が合意できる契約を締結しましょう。
2つ目は、紛争防止のため契約書は絶対に作ること。
契約書は、紛争の事前防止になります。契約書を作るのにお金がかかるからと、契約書を作らないまま作業を進め、トラブルが起こってから弁護士に相談すると、多額の費用がかかることもあります。
3つ目は、最後は信頼関係が大切ということ。
契約書を作ったとしても、予期せぬトラブルが発生する可能性があります。クレームを出すにもコストがかかります。臨機応変に、自分の会社にとってクレームが利益になるのか踏まえ、契約時の信頼関係を思い出した上で、クレームを出すか考えましょう。
4つ目は、もしトラブルが起こってしまったら一人で悩まず、誰かに相談すること。
問題が起こったら、弁護士や同じクリエイター仲間に、すぐに声をかけることが大切です。企業の皆さんについては、顧問弁護士の方がいるのに、相談しづらい、という理由でなかなか相談できていないケースもあるようです。弁護士の方も喜ぶので、何かあれば、ぜひ早めに連絡をしてみてください。
ここで、崔先生に、参加者の皆さんからいただいた質問にお答えしました。
Q:良い弁護士の見つけ方はありますか?
A:どこで探すかにもよりますが、口コミは大事ですね。また、近い業種の方に聞いてみるのもいいです。また、話をちゃんと聞いてくれる人がお勧めですね。弁護士によって専門性やキャラが異なるので、会ってみて決めるのが1番だと思います。
Q:請負契約と業務委託契約の違い。
A:請負契約は、法律の専門用語です。業務委託契約と同じものだと思って大丈夫です。
Q:契約書はどちらが作るものですか。
A:大手企業はあらかじめフォーマットを持っている場合が多いですね。契約が有利か不利か、しっかり見極めないといけません。また、自分にとって負担となる内容は交渉すべきです。また、発注者が契約書を作ることが多いですが、請負人となる人が契約書を作るのも問題ありません。自分の基本的な仕事のスタンスや考え方に合致する契約書を作っておくと、企業と契約をすり合わせる材料にもなります。
次に、著作権についてです。
著作権とは著作権法に定められており、その作品が著作物に当たれば、特別な手続きなしに発生します。著作権が発生すると、著作者に様々な請求権が発生します。
著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と著作権法で定められています。「思想または感情」は、自分の「思い入れ」くらいに留めておいて問題ありません。子どもが作ったものでも、これに当てはまれば、著作物と言えます。
逆に、何が著作権に当たらないかというと、「単なる事実やデータ」です。例えば、歴史の事実は著作物にはなりませんが、それを元にして作った映画や小説は著作物となります。
また、ありふれたものも、著作物にはなりません。「手を洗おう!」というキャッチコピーを作ったとしても、この表現には創作性がないため、著作物には当たらないと言えます。
さらに、著作物は「物」であることが大切です。例えば、頭の中のアイデアや、人の癖は、著作物になりません。例えば、作家が絵を描くときの、癖や手法自体は著作物には当たりませんが、それが反映された作品そのものは、著作物に当たります。
著作者とは、制作した人のことを指します。基本的には著作者と著作権者は同じですが、違う場合もあります。一つ目は、映画など、著作物が複数の人によって作られた場合です。二つ目は、著作者が会社に所属する場合。会社に所属する人が著作物を作ったとしても、それは「職務著作物」となり、その著作物の権利は、著作者ではなく会社のものとなります。
利用とは、複製、公表、展示などを指し、第三者が著作物を扱いたい場合は、著作権者の許可が必要です。二次利用とは、元となった著作物を利用して、新たな創作物を作ることです。二次利用した著作物の著作権は、新たな創作物を作った著作者に属します。
著作権と同じくらい大切ですが、見落とされがちなのが、著作人格権です。著作者人格権とは、作った人のこだわりや思いを守る権利です。著作権と同時に発生しますが、著作権とは全く別物です。人格権というくらいなので、著作者本人に帰属し、譲渡することができません。著作権は、財産権となるので、誰かに譲渡できます。
「公表権」とは、未公表の著作物を公衆に提供する権利のこと。つまり、未公表の著作物を公開するかどうかを決めることができる権利です。「氏名表示権」は、著作物に氏名を表示したり、表示の方法をコントロールする権利のこと。そして、「同一性保持権」は、著作物について、無断で変更、切除、改変を受けない権利のことです。
では、著作権を侵害された場合には、どのようなことができるのでしょうか。
まず、民事的対応では、予防、差止請求をすることができます。また、それによって損害賠償を請求することもできます。
次に、刑事的対応を見てみましょう。著作権を侵害した場合、10年以下の懲役や、1000万円以下の罰金が科せられます。しかし、刑事的対応を受けるのは「故意」に著作権を侵害した場合のみです。不注意で侵害してしまった場合は、民事的対応になります。
著作権が侵害された時の具体的な対応としては、内容証明郵送が挙げられます。「このような理由があるので、あなたの著作物は、私の著作権を侵害しているので、使用をやめてください」という旨を送ることです。もし、これでダメなら裁判や刑事的な場合は警察に行くことになります。
では、著作権のトラブルを防ぐには、どのような対策を取ることができるでしょうか。まずは、契約時に著作人格権や著作権について合理的な合意内容をしっかりとすり合わせます。そして、それが証拠となるように、合意内容を明確にした契約書を必ず作成しましょう。また、不注意で著作権を侵害してしまわないように、インターネットなどを使って、創作時点でしっかりとリサーチしましょう。そして、トラブルが起きた場合は、すぐに相談しましょう。
著作権は、著作物に対して発生する権利で、その判断基準は「独自性のある表現であるか」ということです。データや事実は著作物にはなりません。また、著作人格権や著作権の侵害になるのかどうか、結局は個別判断になります。もしトラブルが起こったら、一人で悩まずに弁護士に気軽に相談しましょう。
ここから、今までの講義を受けて、参加者から崔先生へ質問をお聞きしました。
Q:チラシの制作を委託されて納品したら、そのデータを使用して、勝手に名刺を作られた。発注者がデータを流用し名刺を許可なく作ったことに対して、どう対処すればいいのか。
A:これは、契約の定め方の問題ですね。契約を結ぶ時点で、著作物をどうするか、どこまで利用を許すのか契約書に書いておくべきです。著作権を譲渡しなくても、ここまでの利用ならいいですよ、と契約書に書いておきましょう。もし、どこまで使うのかの取り決めがされていなかったのであれば、それは著作権侵害にあたるので、差止や損害賠償などを行うことができます。
Q:制作物を実績として自身のウェブサイトなどに掲載してもいいのか。その場合、クライアントの許可は必要なのか。
A:契約を交わすときに、著作権を渡していなければ問題ありません。万が一、著作権を譲渡していた場合は、勝手にウェブサイトに載せることはできません。その場合は、利用させてくださいと許可をとっていれば、掲載することは可能です。もし、ウェブサイトに載せたいのであれば、契約を結ぶ際に、事項に入れておきましょう。
必要だとはわかっていながらも、なかなか学ぶことができていなかった請負契約と著作権。崔先生の軽快なトークで、難しそうに見えていた法律を身近に感じ、良い創作活動のために必要不可欠で、お互いが納得して契約を結ぶことが大切だとわかりました。
時間となったので講義は終了しましたが、「知的財産権」や「二次的著作物利用権」の質問を多くいただきましたので、次回のCROSSでは、これらを深掘りしていきます!
7月14日18:30からは、「知的財産権」、7月29日18:30からは、「二次的著作物利用権」について、崔先生に再びお話いただきます。自分たちが作ったものを守るために必要な「知的財産権」、誰かの著作権を侵害しないために必要な「二次的著作物利用権」、どちらも受注者・発注者とって大切な知識となります。ぜひぜひご参加ください!
【2020年7月14日開催】
CROSS2020 vol.2 クリエイティブのまつわる法-知的財産権-
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