2026.02.18
studioRAW 北谷 玲佳 × 旭屋ガラス店株式会社
◆STORY
職人の街・神戸市長田区で約100年続く老舗ガラス店「旭屋ガラス店」。昭和の家屋で使われてきた型板ガラスをランプシェードや器へと生まれ変わらせるその取り組みは、現在注目を集めている。そんな旭屋ガラス店の想いをより深く、より正確に伝えるために行われた今回のサイトリニューアル。こうべ産業・就労支援財団の紹介をきっかけに「studioRAW」代表の北谷玲佳さん、サイトディレクターの畠中さんと出会いプロジェクトは動き出した。立場も専門も異なる三人が、何を感じ、何を共有し、どのように一つのサイトをつくり上げていったのか。それぞれの想いを語り合っていただだいた。

◆プロフィール
旭屋ガラス店株式会社 三代目店主 古舘 嘉一さん
神戸市長田区に店を構える旭屋ガラス店は、1927年創業、約100年にわたり地域の暮らしを支えてきた老舗のガラス店。建物の窓ガラスの加工・販売・施工を中心に、職人の街・長田で確かな技術を積み重ねてきた。2002年、三代目店主古館さんの継承を機に、役目を終えた昭和の型板ガラスに新たな価値を見出し、ランプシェードや器へと再生する取り組みを開始。型板ガラス特有の揺らぎや模様が生むレトロな美しさは注目を集め、世代を超えて支持されている。
studioRAW 代表 北谷 玲佳さん
神戸を拠点に活動するクリエイティブスタジオ「studioRAW」。写真・映像・ブランディング・Web制作まで、ブランドや人の“本質”を鮮烈に映し出す表現を追求している。代表の北谷さんは、映像制作会社での経験を経て独立し「ありのままの魅力を丁寧にすくい取る」ことを信念に制作に向き合うクリエイター。飾られた演出ではなく、リアルな空気感や感情を大切にした表現で、クライアントの想いをまっすぐ届けるコンテンツをつくり続けている。相談のしやすさと確かな技術力で、ジャンルを問わず多彩な制作に対応。見る人の心に深く残る、ストーリーあるビジュアルを創出している。

サイトリニューアルを北谷さんに依頼したいと思ったポイントを教えてください。
古館さん:
今回はただ見た目を整えるリニューアルではなく、長年向き合ってきた型板ガラスへの想いや、旭屋ガラス店として大切にしてきた価値観を、ちゃんと伝わる形でサイトに反映させたいという気持ちを強く持っていました。以前のホームページではそこが十分に表現できていないことがずっと課題だったので、こうべ産業・就労支援財団の方に相談する中で、これまで接点のなかったクリエイターの北谷さんをご紹介いただくことに。ただ彼女の作品は以前からホームページなどで拝見していて、感覚的に「この人ならお願いしたい」と思えるものがありました。実際にお会いしてみても、その印象は変わらず自然体で話しやすく、今と同じ明るい雰囲気だったことも、依頼を決めたポイントにもなりました。
北谷さん:
今回は直接のご縁ではなく、こうべ産業・就労支援財団さんからのご紹介という形だったので、いつも以上にきちんと向き合わないといけないという気持ちがありました。また長い歴史を持つお店のリニューアルを任せていただくことの重みも感じていて、最初は少し背筋が伸びるような感覚でしたが、古館さんの型板ガラスやお店に対する想いがとても真っ直ぐで、その想いをどうすれば無理なく、でもしっかり伝えられるかを一緒に考えていけそうだと感じられたことで、制作に向き合う覚悟がより強くなりました。
畠中さん:
古館さんと初めてお会いしたとき、昔のものをただ懐かしむのではなく、そこに新しい価値を見出して新しい形にアップデートし続けている姿勢がとても印象的でした。今の消費社会では「使っては捨てる」ことが当たり前になっている中、昭和の型板ガラスを活かしながら次の世代につないでいこうとするその挑戦自体が、すでに強いメッセージになっていると感じましたし、それをどうサイトで表現するかは難しさもありましたが、だからこそやりがいのあるプロジェクトだと思いました。
サイトリニューアルにおいて、どのようなご希望をお伝えしたのでしょうか。
古館さん:
サイトリニューアルの見せ方としてはできるだけシンプルなものをイメージしていたので、その点は最初にお伝えしました。ただ、こちらからのヒアリング内容だけで構成するのではなく、これまで新聞やメディアなどで紹介していただいた記事も多くあるので、そうした情報にもきちんと目を通してもらえたのはありがたかったです。
実際には、想像していた以上に過去の記事や背景まで丁寧に調べてくださっていて、自分でも忘れかけていた言葉や想いまで拾い上げてもらえた感覚がありました。結果として、こちらが言葉にしきれなかった部分まで含めて、予想以上に深みのある文章に仕上がっていて、とてもありがたく感じています。
畠中さん:
サイトでクローズアップするのは型板ガラスなので、写真が重要になるのは大前提ですが、それ以上に大切にしたかったのは、古館さんがガラスに込めている想いや、長年続けてこられたこだわりを、どう文章で伝えるかという点でした。
これまで新聞やニュースなどさまざまな媒体で取材を受けてこられていて、またテレビ出演の実績もあったので、それらを一つひとつ確認しながら、どんな言葉が古館さんらしいのかを探りました。点在している情報を整理し、共通して流れている想いをすくい上げて、今の旭屋ガラス店を表現する文章としてまとめることを意識してライティングしています。
北谷さん
今回の撮影では、ガラスそのものの質感を丁寧に見せること以上に、まずは「これ何?」と目を止めてもらえるインパクトが必要だと感じていました。そのため、ガラスの模様を邪魔しない光の当て方や構図を意識しつつ、あえて一見ミスマッチに思える組み合わせも提案しました。例えば、無機質なコンクリート打ちっぱなしの空間に、昭和のガラスだけをぽつんと置いて撮影するなど、背景との対比でガラスの存在感が際立つような企画です。商品としての説明写真ではなく、世界観を感じてもらう写真になるよう、撮影全体を組み立てました。
畠中さん:
もともと古館さんからは、複雑な構成ではなく、できるだけシンプルなサイトにしたいというご要望がありましたし、実際にガラス自体が十分な存在感を持っているので、過剰な装飾は必要ないと感じていました。そのため、世界観を邪魔しないことを最優先に、情報の整理やページ構成、デザインのトーンを考えています。余白や文字量、写真の見せ方にも気を配り、ガラスそのものが自然と目に入ってくるような流れを意識しました。
古館さん:
正直なところ、自分の中にははっきりとした想いはあっても、うまく伝えきれていない部分も多かったと思います。それにもかかわらず、こちらの断片的な話や背景から意図を汲み取ってもらい、自分が思っていた以上の表現として形にしていただいたことには、本当に驚きました。自分の考えを整理してもらったような感覚もあって、今回のリニューアルを通して、改めて旭屋ガラス店の立ち位置を確認できた気がしています。

振り返って印象に残ったことやエピソードはありますか?
古館さん:
制作の途中で、私自身が体調を崩して入院してしまうという出来事があり、結果的に皆さんに心配や気遣いをさせてしまったなと、今振り返ると思います。ただその状況下でもプロジェクト自体はきちんと前に進めていただいていて、こちらが気持ちを煩わせることなく仕事を任せられたのは本当にありがたかったです。自分が不在でも信頼できる体制を作ってもらえていたからこそ、今のサイトがあるのだと思います。
北谷さん:
実際に作業として動いていた期間は、結果的に約2ヶ月ほどでした。古館さんの入退院なども想定して、スケジュールには余裕を持たせていましたし、ご無理をさせないことを前提に進めていました。その中でも想定していた流れ通りに進行できたので、正直ホッとした気持ちが大きかったです。チーム全体で状況を共有しながら進められたことが、スムーズさにつながったと思います。
古館さん:
印象的だったのは、サイトだけでなくロゴまで制作してもらえたことです。ちょうど屋号としてロゴを決めたいと考えていたタイミングで、昭和30年頃の店の写真に写っている看板の書体がいいなと、個人的に思っていたんです。でも、その話は特にしていなかった。それなのに、気づいたらその雰囲気を汲み取ったロゴ案が出てきていて、見た瞬間に「これやな」と即決でした。
北谷さん:
そこは、ちゃんと意思疎通できていたということで(笑)。
自然に同じイメージを共有できていたのは、嬉しかったですね。

今後の展望を教えてください。
古館さん:
今回のリニューアルで、細かい想いや背景まで伝わるサイトにしていただいたことで、個人のお客さまだけでなく、BtoBを含めたさまざまな問い合わせが入るようになりました。型板ガラスの加工についても、最初から先を読んで計画していたわけではなく、目の前にあるガラスと向き合うところから始めたものが、自然と声をかけていただく機会が増え、結果的に広がっていったという感覚です。目的や目標を明確に掲げて進めたというより、父親が残してくれたものを「これは活かしたい」という想いで形にしていったら、お皿やランプシェードがひとり歩きするように全国へ広がっていった。今は次々とお話をいただいているので、一つひとつ丁寧に対応していきたいと思っています。
また、現在具体的に取り組んでいるのが、石川県・能登半島の被災を受けたお家から出たガラスを引き取り、お皿やランプシェードに加工してお渡しする取り組みです。さらに、残ったガラスを作品として販売し、その売り上げの一部を支援に回すという循環型の支援も行っています。一度きりではなく、無理のない形で継続していくことが大切だと思っていて、今後もこの取り組みには力を入れていきたいと考えています。
北谷さん:
「studioRAW」は今年の4月で3年目を迎えます。立ち上げ当初はポートレート撮影が中心で、家族写真や七五三、記念写真など、人を撮る仕事が多くありました。人を撮影することは今も大好きですが、最近は企業さまからのご依頼も増えてきていて、想いのある商品や作品、その背景にあるストーリーを伝えるビジュアルメディアの制作にも、より力を入れていきたいと考えています。
古館さん:
今後については、石川県の支援プロジェクトに関するページや、型板ガラスの種類を紹介するページなども、引き続き北谷さんと畠中さんにお願いしたいと思っています。今回のサイトリニューアルをきっかけに、こうしたつながりを持てたこと自体に、とても感謝しています。
