Pickup Creators

2019.10.27

街に、伝統工芸に、新たな価値をデザインする

小西美鶴意匠室 小西 美鶴

景観になじむようなサインやオブジェを

 

景観をかたちづくるランドスケープデザイナーのジャンルは植栽から構造物まで多様です。その中で、私はサインやモニュメント、オブジェなどそれ自体は建物のように目立ちはしないものの街の景観に溶け込む構造物を設計、デザインしてます。

三宮のセンターサウス通りという商店街はなぜかマンホールだらけなんですが、それをきれいにしてほしいという依頼を受けて10年がかりでマンホールのデザインを変えていきました。酒蔵が集積する灘五郷の一つ魚崎郷の入口に立つ標識については素材に黒御影を使いさらに鏡面磨きを施すことで、海からの塩、排気ガスの汚れを雨で洗い流せるように考えました。

「魚崎郷」入口

 

長い時間の単位で考え、街の価値をつくる

 

神戸旧居留地の建物には1から126までの番地がついているのですが、このうち40余りの近代建築につける番地標識を手がけました。ヨーロッパのような街並みにしようということで、建物に負けないように、そして時を経ても美しくなるようにと考え、素材には銅板を選びました。設計、デザインをするにあたって大切にしていることは長い時間の単位で見ていくこと。そのためには当事者の方たちと話をしながら、長いお付き合いをしていくことが大切だと思ってます。旧居留地の方々とのかかわりは今も大きな財産になってます。私の手がけた作品を見た人が、あなたに仕事を頼みたいと言ってくれるのがありがたいですね。

 

「神戸旧居留地」番地標識

 

ただ行政も企業も近年は余裕がなくなってしまって、そうしたデザインにかける予算が絞られるようになってしまいました。派手で目立てばよいというような商業的なデザインばかりが増えつつあることをとても残念に思ってます。せっかく築いてきた街の雰囲気がぐちゃぐちゃにされて、街そのものの価値を落としてしまってます。

 

古き、良きものをリブランディングし、現代につなぐ

 

3年ほど前に、全国各地の伝統工芸の産地と売り手とをつなぐコーディネーターの仕事をやらせてもらいました。七宝焼、琉球漆器など一つひとつの産地を訪ねて、今の生活に合うようにカジュアルなデザインの商品にして、私がこれまでつながってきた雑貨店、インテリア店などで売ってもらったところ大変好評でした。産地の方とも仲良くなれたので、これからは産地と神戸をつなぐ仕事に力を入れていきたいなと思ってます。

日本の伝統工芸が今、パリで人気を呼んでいるそうです。パリと日本を頻繁に行き来している方とお話をしていたら、パリではまだ神戸の街がブランドとして評価されているとのこと。神戸を10回訪ねたけれどもっと面白いことあるはずと言われているので、私の感性でありきたりではない神戸を紹介しようと思ってます。

昔からあるものや街を目利きして、そこに新しい生命を吹き込んで、本物を求めているお客さんとつなげることをこれからのライフワークにしていきたいですね。