2020.08.17
2020年7月29日、クリエイターやビジネスパーソンにとっての学びの場となるオンライントークイベント 「CROSS2020」のvol.3を開催しました。
今回のテーマは「職務著作・二次的著作物利用権」。
ゲストはvol.1,2に引き続き、クリエイティブにまつわる法について神戸セジョン外国法共同事業法律事務所の崔舜記氏です。
職務著作・二次的著作物利用権について学ぶ前にvol.1で紹介された「著作権」について改めて簡単に説明します。
著作権とは、著作権法という法律に定められており、その作品が著作物に当たれば、特別の手続きなしに発生する権利のことです。特許や商標のように登録して得られる権利ではありません。著作権が発生すると、その権利の持ち主である「著作権者」には様々な請求権が発生します。
では「著作物」とは、どういうものか?
著作物とは、思想または感情創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの。簡単にいうと著作権とはアートに発生する権利です。
そして著作物であるためには、
(1)人の精神活動の中で作られた物(思想または感情)
(2)作者の個性が表れていること(創作的)
(3)外部から認識できるものであること(表現)
(4)文化的なものであること(文化、学術、美術または音楽)
という要件を満たす必要があります。
著作権者になった場合には、著作物を利用、処分できる権利が付与されます。
つまり著作物を利用するためには、著作権者の許可が必要です。そして著作権は譲渡が可能です。
ここでポイントとなるのが、著作権者が複数人の第三者に著作権の譲渡をした場合、誰が有効となるのか。この場合、著作権の登録制度を用いて文化庁への登録を行なった者が有効となります。
そのためにも著作権は自動的に付与される権利ではあるが、著作権の登録をすることも重要となります。
また、著作権者には二次的著作物利用権も付与されます。つまりある著作物に手を加えて創作した新たな著作物に対しても権利を有するということです。
しかし、著作権は制限される場合もあります。例えば完全な私的複製や公益性の高いもの等は、許可なく利用できる場合があります。図書館で私的に文献をコピーする場合や学校教材としての使用する場合など、許可なく著作物を利用できるケースがあるのです。
そして著作権が保護される期間は、個人名義の場合は著作者本人が死亡した翌年の1月1日から70年間、法人名義の場合は作品を公表した翌年の1月1日から70年(映画も同様)と規定されています。
では、「著作権者」とは誰に当たるのでしょうか?
著作権は、原則作品を創作した人が「著作権者」となるが、複数の著作者によって創作され、著作者の寄与が分離して利用できない場合は「共同著作権者」となります。
また、会社等の法人に属する者が職務上で創作した場合は、特別な定めがない限り原則として著作権者は法人にあたります。これを「職務著作」と言います。
著作者人格権とは、著作者のこだわりや思い入れを守るための人格的な権利のことで、著作権と同時に発生します。ただし、著作権人格権は、著作権とは異なり譲渡が不可能であり、著作権とは別で成立・保護されます。著作者人格権には大きく分けて3つの権利があります。
一つは、未公表の著作物を公衆に提供する公表権、そして著作物に対して氏名表示の有無や方法を決めることのできる氏名表示権、最後に、著作物について変更や切除など改変を受けない同一性保持権。
では、これらの権利は二次的著作物に対して請求することができるのでしょうか?これは、自身が著作権を有する部分については、当然ながら著作者人格権も行使することができます。
どのような場合に著作権侵害となるのでしょうか?
まず、「著作物」を著作権者の許可なく、利用した場合。ここで”写真素材トレース事件”を例に話します。この事件では、同人誌の裏表紙のイラストの一部が、原告が写真素材集として販売していた写真をトレースしたものではないかと問題になりました。写真は十分に著作物となるが、その写真を原案としていないという被告の主張や、シャツの柄が異なる点、色彩が違う点から、裁判所は被告のイラストは原告の写真の著作権侵害ではないと判断しました。
では著作権が侵害された場合どのような措置が得られるのでしょうか?
もし著作権侵害をされた場合には、民事的対応として予防や差止請求や、発生した損害に対しての損害賠償請求を行うことができます。また刑事的対応としては、懲役刑や罰金刑が科されます。このように著作権侵害は注意すべき重い違反となります。
職務著作とは、従業員等が、仕事で作成した著作物のことです。そのため著作権や著作人格権は会社に帰属します。たとえば新聞記者が書いた記事やデザイン会社の従業員が作成したイラストは会社が権利を有しています。
これは、従業員等は職務上で創作した著作物については、個人としての著作権を行使する目的で作成しないのが通常である点や、その制作において給与等の対価を得ていることから、職務著作においての権利は法人におかれています。
法律の規定では、“職務著作は、「法人等の発意」に基づき、「その法人等の業務に従事する者」が「職務上作成」し、「法人等が自己の名義で公表するもの」は、「作成時の契約や就業規則などに特別の定めがない限り」、著作権は法人等に帰属する”と明記されています。
この「法人等の発意」とは、具体的な指示のことではなく法人等がしている事業計画に関するものならほとんどが認められます。
つまり、会社に属する者は事業計画とは関係なく休日等に個人の目的で制作したものに関しては職務著作に含まれません。
また、「法人等の業務に従事する者」とは、会社の従業員が典型的だが、従業員ではなくとも、会社の指揮監督下において労務を行い金銭等の対価を得ている者も含まれます。ここで重要なのが、クリエイターがクライアントの依頼で制作する場合、著作権の取り決めについて明記した契約書を作成しておけば、職務著作にはならないことです。
そして、「職務上作成」とは、業務従事者が職務の遂行として作成している場合のことであり、勤務時間外や留学中でも職務の範囲内であれば該当します。
二次的著作物とは、ある著作物、つまり元となる著作物(原著作物)をもとに製作された著作物のことを指します。小説の映画化や書籍の翻訳版などがその例です。
例えば映画化された書籍の著作権者は映画に関する著作権も認められるのです。二次的著作物を制作するにあたって、原著作物の著作権を完全に譲渡されて作成した二次的著作物は、特に問題はありません。しかし、著作権の利用許諾を得ていても、著作者人格権は原著作者にあることに注意が必要です。
また、著作権の保護期間が過ぎている著作物に関しては利用許諾なく、自由に使うことができます。
では、二次的著作物そのものの著作権はどうなるのでしょうか?
当然ながら、二次的著作物についても著作権は発生します。
ただし、これは原著作者の著作権者から利用許諾を得ている場合にのみ有効であり、利用許諾がない場合は、著作権侵害となり完全な著作権はありません。ここで重要なのは、二次的著作物の著作権者は、権利を持っているからといって著作物を好きにできるわけではない点です。
原著作物の著作権者も同様に二次的著作物について著作権を持っているため、都度許諾が必要となります。また、原著作権者は、著作権の利用許諾を与えた人に許可なく、別の他者に対しても、自身の著作権の利用を許諾することができます。仮に著作権の利用許諾を得た者が利用契約内で他者への利用許諾を制限する旨を取り決めていた場合は、契約内容が優先されます。
そして二次的著作権の利用については、著作権を譲渡してもらう場合と利用させてもらう場合で権利や利用の幅が全く変わってくるので注意が必要です。
二次的著作物にまつわる問題について紹介します。
ここでは、二次的著作物の該当性についてキャンディキャンディ事件上告審を例に説明します。
「キャンディキャンディ」は水木杏子氏が原作でいがらしゆみこ氏が作画を担当する有名なマンガです。この事件では、キャンディキャンディの絵だけの利用(キャラクターグッズ等)に対して原作者が著作権を主張しました。この事件は最高裁まで争われた結果、キャンディキャンディという漫画は原作の二次的著作物であり、漫画の絵だけを使う場合でも原作者の許可を得なければいけないという判決が下されました。
著作物・二次的著作権についてクリエイターの立場から気をつけるポイントをまとめて紹介します。
制作しようと構想している者が類似していないかを文化庁の登録やネット等の情報をチェックして、確認することが大事です。そして調べた際に、類似しているまたは現作物があることがわかった場合には、著作権者から著作権そのものの譲渡を受けるか、利用許諾を得る必要があります。
クライアントワークで制作する場合には、その制作物の著作権が誰に帰属するかを明確にすることが大事です。また、著作権の譲渡まではいかなくても利用を許諾する場合は、どの範囲まで利用が可能かなどを合意しておくことも重要です。そして合意を書面化しておくことが最も大切なポイントです。 職務著作については、業務委託契約や労働・就業規則などを作成し合意しておく必要があります。
著作権を得た事後の行動として、著作権をより保全するためにも著作権登録しておくことが大事です。著作権の登録は著作権が侵害された場合にも、自分の先願性を主張する証拠として有効になります。
また、著作権侵害と言われ場合、そもそもそれが「著作物」と言えるのかを確認することに加え、自作品がその翻案・類似といえるかを確認していく作業が発生します。オリジナリティには限度があることから、著作物の類似はクリエイターにとって起こりうる懸念です。だからこそ自作品が翻案であるか判断しかねる場合には、弁護士などの専門家に相談することも非常に重要です。
これまで3回にわたってクリエイターが知っておくべき法である「請負契約と著作権」「知的財産権」「職務著作と二次的著作物」について学んできました。
さまざまな判例をもとに学ぶことで、クリエイターにとってどれだけ身近に起こり得るものなのかを知ることができ、創作活動において法を犯さないため、また自らの権利を守るための対策を学ぶ貴重な時間となりました。