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Pickup Creator取材記事

神戸大学大学院システム情報学研究科准教授 藤井信忠

神戸大学大学院システム情報学研究科准教授
藤井信忠

 

「078KOBE」と「アーバンデザインセンター神戸」、その共通項はまちづくり!?

 

|プロローグ

 

音楽、映画、インタラクティブ、ファッション、キッズなど、さまざまな分野を横断したイベント「078KOBE」。2017年から年1回のペースで開催されてきた、この企画の実行委員長として名を連ねるのが神戸大学のシステム情報学研究科准教授の藤井信忠さん。どうしてシステム情報学の先生がこれを!? そんな素朴な疑問から、システム情報学とクリエイティブ、まちづくりの関係までお聞きしました。

 

|実験の場としての「078KOBE」

 

藤井さんの話を伺う前提として、まずは「078KOBE」のことをおさらい。「078KOBE」は、アメリカ・オースティンで毎年開かれている「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」をひとつのモデルにしている。数多くのライブハウスが立ち並ぶオースティンで、音楽祭として始まった「SXSW」は、いまでは映画、インタラクティブ、コメディを組み合わせた複合イベントに発展。全世界から何十万人という参加者が集まる巨大なクリエイティブイベントとなり、オースティンの街への人口流入、発展を促すまでの影響力を持っている。

―日本版「SXSW」を目指しているともいえる「078KOBE」、端的にいえば、クロスメディアイベントだと理解しています。

藤井:神戸で以前から開かれていた音楽イベントや、映画、ITといったムーブメントがひとつに集まって、一堂に開催することで新たな価値が生まれるというのもひとつの側面ですが、コンセプトに「実験都市」と掲げているのは、それだけが理由じゃないんです。

―クロスメディア、クロスカルチャーだけが「078KOBE」のポイントじゃないと。

藤井:1年に1度、イベントという非日常の場を活用して、ずっと温めていたアイデアを発表したり、実践するための場として考えています。プロトタイプを世に出す機会ということですね。
たとえば、L社が家1棟を借り切って、生活動線のなかで彼らの商品テクノロジーをワークショップ形式で試してみたりだとか、東遊園地の西側にP社のショールームがありますけど、そこでも「078KOBE」の期間だけ、彼らがつくったドアのアイデアを試してみたり。
おもしろいのは、食やキッズ企画を目当てにやってきた家族連れが、ふらっとそういう場に立ち寄ったりすることがあるんです。ITのフェスティバルを単独で開催しても、なかなか家族連れが訪れることってないので、そこがクロスメディアで開催している強みですね。

―藤井さんのご専門とされているシステム情報学と「078KOBE」の関わりもありますか。

藤井:私自身がやっていることではないですけど、会場ごとの人流を計測したり、顔認証の計測をやってたり、「078KOBE」の会場でいろんな実験が行われています。
「078KOBE」は、神戸市の公金も拠出いただいてますが、あくまでも民間主導というのもポイントで、基本的に入場無料。そこで、企業や研究室に対して実験の場として、場所と機会を積極的に提供しています。その代わり、計測されたデータは実行委員会とも共有してくださいねとお願いして。

―コンセプトに「実験都市」と掲げられている意味がわかってきました。

藤井:私たちの広報がうまくないので、そこが伝わってない面もありますけど、昨年からコミュニケーションデザインのチームも加わって、少しずつ改善されていくと思います。

「078KOBE」のwebサイト。今年はオンライン開催に変更して5月に開催された。9月にもオンラインでの開催が予定されている。→https://078kobe.jp

 

|神戸でアーバンデザインセンターを立ち上げたワケ

 

―「078KOBE」の意義についてもう少し教えてください。

藤井:私は1回目の開催から、これは30年続けますよと宣言してるんです。そうやって繰り返していくことで、神戸ならではの価値が出てくるだろうし、上からではなく、市民発動の参加型イベントとしてどんどん市民を巻きこんでいくことで、神戸らしさの醸成につながるんじゃないかと期待をしています。
そして、「078KOBE」をやっているうちに気づいたことがありまして、この取り組みって、まさにまちづくりをやってるんだなって。

―にぎやかなイベント的な側面もありますけど、お話を伺っていると決してそれだけでは語れないですね。

藤井:ただ、「078KOBE」というのは年に数日行われる非日常的なイベントではあるので、せっかく社会にアイデアを発信して試みたとしても、それを社会実装まで結びつけていくためには、その後も時間をかけてつきあっていく必要がありますよね。
そんなときに、東京大学の都市工学の先生らが中心になって、全国にネットワークしている「アーバンデザインセンター(UDC)」の関係者に会ったんです。

―「UDC」は、公・民・学が連携して地域課題の解決とまちづくりを行う推進体として、全国に広まっています。

藤井:その方が「078KOBE」も見てくれていたらしくて、UDCの全国会議に私を呼んでいただきました。各地のUDCの報告を聞いていると、ますます「078KOBE」はまちづくりだ! って確信しました。
そこで、さきほど話した「078KOBE」前後の社会実装までの道のりをつなぐ組織として、2018年に神戸で「UDC078」を設立しました。そうすることで、各地のUDCで行われている知見や経験を参照することもできますから。

―「078KOBE」から「UDC078」の立ち上げまで、藤井さんの周りで矢継ぎ早にいろんなことが動いてますね。

藤井:たまたまいろんなタイミングが合って幸運でした(笑)。ただ、私は都市工学の専門家ではないので、全国のUDCの中でも「UDC078」は異質な存在。だけど、IoTデバイスの発達などもあって、スマートシティが形になりつつある今、その基礎技術として、私の専門であるシステム工学が欠かせません。そういう意味では、私がUDCに関わるというのも好意的に受け止められています。

UDCの全国会議が、今年は神戸で行われる予定。

藤井さんの向こうに見えている淡路島のたまねぎ。藤井ゼミでは、昨年から南あわじ市で農業と教育をテーマにしたプロジェクトも進めている。

 

|もともとの研究領域について

 

―藤井さんのご専門であるシステム情報学についても教えてください。

藤井:私は学生時代も神戸大学で、機械工学科に入って工場のマネジメントだとか、そういったことをやってました。研究室では次世代のものづくりの研究をはじめて、2002年には東京大学の人工物工学研究センターに移りました。いまでは製品サービスシステム、製造業のサービス化も一般的ですけど、そのことを言いはじめた機関のひとつが人工物工学研究センターで、そこでサービス業も対象に研究を進めるうちに、参加型デザインや、人は何に価値を見出すのか、いかにアイデアを出していいモノをつくりだしていくのか、といった本質的なことを意識するようになってきました。

―当時、エンジニアリングの分野でもそうした研究が盛んになってきたということですね。

藤井:そうですね。エンジニアリングといえば明確な対象があって、何かをつくりだすというものでしたが、人文社会系の認知科学や心理学、経済学といった知見を持ちこむことで、工学の限界を突破しようというマインドが強まっていました。モノづくりの側とユーザー側、この両方をうまく巻きこんでいかに最適解を出すか。

―たとえば、具体的にはどんな研究になるのでしょう。

藤井:もう8年くらい継続して取り組んでいるのは、G社。コンピューターのシミュレーションや最適化のアルゴリズムを使って、厨房のレイアウトを考えるといった共同研究を続けています。
生物由来の考え方を応用して、環境の変動にも柔軟に適応できるシステムを実現するといったことが私の専門領域になりますけど、創発(エマージェンス)という自発的に生まれ出てくるもの、それを促すための場づくりというのを常に考えています。


|アイデア創出から社会実装まで

 

―「UDC078」では、そうしたシステム情報学の知見を活かしてどんなことが行われていますか。

藤井:私自身がやってることではないですけど、地下街の人流データを使って空調をコントロールするという研究をやってる仲間がいるので、そのデータを共有してもらって、どこにどの店をレイアウトすればどうなるかというシミュレーションなども進めています。
工場の物流システムなどを見てきた私の専門領域からすれば、地下街の人流も同じ枠組みで考えることができます。ただ、都市工学などのまちづくりの知見にはまだ欠けているので、そこをいかに接続させていくかというのが、これからの私の関心事になりますね。

―イベント型の「078KOBE」から、「UDC078」で実際に地域課題を解決するところまで。根っこでは神戸のまちづくりという点でつながっているんですね。

藤井:神戸市とは都市の課題解決にオープンデータを使う国際ワークショッププログラム「ワールドデータビズチャレンジ」というのも始めています。システム工学と都市工学など違う専門が結びついて、神戸市ではこれから共創がどんどん起こっていくと思いますよ。

―藤井さんといえば、「アイデアソン」も行われています。

藤井:アイデアソンとは、アイデア×マラソンの造語で、「ハッカソン」と同じく、グループ単位でアイデアを出しあうというもの。
2015年に大学院の授業として、私が教育の現場に持ち込んだところから、F社と一緒にやることになって、アメリカの「SXSW」にも出展しました。偶然にもその「SXSW」の会場で神戸市から視察に来ていたみなさんと出会ったことが、「078KOBE」へとつながっています。

アイデアソンで使うためのアイテム。何に使うかを想定せずに買うのだそう。

―アイデアソンは大学教育の一環として始められたんですね。それが、その後のさまざまな活動へとつながっている。

藤井:そうですね。大学の教育をなんとかしたいというモチベーションからはじめた「アイデアソン」ですけど、やってみるとオープンイノベーションという観点からも、とても興味深い手法だとわかりました。なので、アイデアソン自体を研究対象として、その現場を録画してテキストマイニングをやったりとか、どう介入すればよりいいアイデアが生まれるのかということも探っているところです。

―すべて研究に結びつけていくのも藤井さんのやり方ですね。

藤井:そうかもしれません(笑)。「アイデアソン」でアイデアを出して、「078KOBE」でそのアイデアを社会に試して、「UDC078」で社会実装へとつなげる。そういう循環をつくれたらと考えています。

―最後に、藤井さんなりに考える、現時点の神戸らしさってどんなことでしょう。

藤井:まだ見えてないというのが正直なところ。よく言われる神戸らしさって、もとをたどれば150年前の開港で外国人がどっと押し寄せたというところから始まってると思うんです。ただ、そこから、みんなが思う「神戸らしさ」って変わっていないともいえる。
阪神淡路大震災の年、私はまだ神戸大学の学生でしたけど、それ以降の神戸ってそれ以前とはやっぱり違っています。だけど、「じゃあ、新しい神戸らしさって何?」と聞かれたら、まだわからない。

―「078KOBE」や「UDC078」を通して、新しい神戸らしさを見出していきたいということですね。

藤井:そうです。「078KOBE」を30年続けることができたら、ひょっとしたら私が思ってるようなのとは全然違う方向に神戸らしさが醸成されるかもしれない。それはそれでいいなと思ってます。古い価値観にとらわれていてはダメですよね。

神戸で気になるお店は、近年、六甲道界隈で活発なラーメン店の動き。「いまは激アツですよ。歴史を刻め、ヒキュウ、繁田というのが三巨頭で、学生たちもめちゃ並んでますね。私がいちばんよく行くのは「つけ麺 繁田」。毎週通ってます(笑)」。