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Pickup Creator取材記事

神戸市クリエイティブディレクター 平野拓也、西山まさき

神戸市クリエイティブディレクター
平野拓也、西山まさき

 

|プロローグ

 

神戸市には、2015年からクリエイティブディレクターという専門職ができました。その3人目=3代目として2018年からその職務についているのが平野拓也さん、そして、2020年に採用されたばかりの西山まさきさんが4代目です。

神戸市クリエイティブディレクターとしての仕事、それぞれのデザインの考え方について伺いました。

 

|クリエイティブディレクターの仕事ってなんですか


平野拓也●茨城県出身。デザイン事務所勤務後、大分県事業にてブランド開発・デザインに携わり、「山形ビエンナーレ2016』デザイナー&アシスタントキュレーターを担当。

―神戸市には市のクリエイティブディレクターがいる。そのことはよく耳にしますけど、具体的に何をやっているのかまではあまり知られていない気がします。たとえば、クリエイティブディレクターの定義はあるんでしょうか。

西山:僕も聞きたいですね(笑)。

平野:そうなんですよ、わからないですよね…。これ、僕が応募したときもそうでしたけど、募集要項に「クリエイティブディレクターとは…」って定義が書いてあるわけじゃないんですよ。だから、つい先日、かなり簡単にですが、作ってちょうど公開したところでした。「デザイン都市・神戸」のサイト内に1ページだけですけど。


https://design.city.kobe.lg.jp/project/creative-director/
(リンク先では活動の事例紹介なども)

―なるほど、わかりやすくまとまってますね。ひと言でいえば、神戸市の行政課題についてデザインの視点からサポートを行なう専門アドバイザー、と書かれてますが、これって全国的にあるポジションなんでしょうか。

平野:僕らも全国に調査してるわけじゃないので、はっきりとはわからないですけど、同じようなポジションの方はいます。たとえば、福島県クリエイティブディレクターの箭内道彦さんとか。ただ、僕らのように、市役所員と同じ部屋に机を並べて仕事しているというのは、全国的にもまだないんじゃないかな。

―確かに、もっと別室に先生のような感じでいるのかと思ってました。勝手な想像ですけど。

平野:そう。わりと図々しい肩書をしながら、なかなか微妙な感じで(笑)。海外の事例だと、市長クラスに提言したり、施策にもダイレクトに関わってという立場もあるでしょうけど、神戸市はそこまでの権限ではないです。

クリエイティブディレクターは神戸市企画調整局つなぐラボに席を置く。ちなみにフリーアドレス制。右奥では、西山さんがまさに役所内の案件の相談対応中。

 

|どうしてクリエイティブディレクター公募に応募したのか


西山まさき●大阪出身。広告制作プロダクション、広告代理店を経てフリーに。2019年、神戸市と企業の共催で行われたデザイン講座で講師を務める。

―神戸市クリエイティブディレクターについての紹介ページを読むと、ようやくその職務が見えてきました。

西山:僕も実際にここで働きはじめるまでは、仕事内容をそこまで具体的にイメージできてませんでした。市民の方もきっとそうですよね。

―ということは、西山さんはどんな動機からクリエイティブディレクターの公募に応募されましたか。

西山:実は、平野さんが採用された2年前の公募の際にも応募していて、そのときは「あの天宅さんが神戸で働いてるんだ」と、それがクリエイティブディレクターの公募を知ったきっかけでした。

―2年前の公募は、2代目神戸市クリエイティブディレクターの天宅さんと一緒に働く3代目の募集でしたね。

西山:あと、僕は大阪在住で、隣りの大阪から見た神戸、という関わり方もあるかなと思ってましたけど、2年前は縁がなくて。個人的な解釈ですけど、神戸市がクリエイティブディレクターという役職をつくったのは、市としてデザインの可能性を信じてるんだなと捉えていて、そこに自分の今までの経験やキャリアが使えるならお手伝いしてみたい。そう思って、今回も挑戦させてもらいました。

―西山さんはもともと広告代理店で働いてられたそうですね。

西山:そうです。広告の制作をベースに仕事をしてきました。ただ、3年前に会社を辞めてフリーになり、そこから2年くらいは、自分へのインプットみたいな感じでいろんな学びの場に参加したりしながら、ブラブラと何もせずにいて。

―ちょっと人生に迷いましたか。

西山:迷ってたんでしょうね(笑)。それまでは、何でも自分でやって一人で突っ走るタイプの人間だったんですけど、フリーの立場になってみて、一緒につくっていくチームの関係性とか、みんなでつくっていくことの大事さを改めて感じました。


―西山さんはご自身の肩書きをどうされてますか。デザイナーですか?

西山:いえ、デザイナーとは名乗ってないんです。僕よりデザインできる人はたくさんいるので。どうしても肩書きが必要だと言われたら、ディレクターにしています。

―自分ではあまり手を動かさない?

西山:必要があればやります。けど、自分の中でもデザインの定義ができてないし、まだ探っているところ。なので、あまり枠にはめず、得意分野のある人達と一緒にやる中で僕の役割が確立されていくのが一番いいなと思います。

―西山さんが思うデザインの力ってなんでしょう。

西山:届けたい価値を、必要としているところへ届けるための手段、コミュニケーションの手段だと思ってます。それを使うことで、さらにいろんなことの可能性を広げていくもの。実は、名刺の裏にもそんなようなことを書いて、いまもお会いした神戸市の職員さんに渡してるんですよ。

西山さんの名刺裏面。

 

|神戸市クリエイティブディレクターとしての2年間

 

神戸市クリエイティブディレクターの最長任期は3年。平野拓也さんはすでに2年の任期を終えて、今年度が最終年となる。ちなみに、クリエイティブディレクターに持ち込まれる各部署からの相談案件は年間100~200件。週3日勤務なので、多いときには1日で6件の相談に次々と対応する日もあるという。


神戸で気になる店は「南国みたいな、どろっとした湿気感のあるセンタープラザ地下。[洋酒喫茶 どん底]や餃子の[ぼんてん]が気兼ねなくていいと思う」と平野さん。

―この2年、クリエイティブディレクターを務めてみて、平野さんなりにどう舵取りをされてきましたか。

平野:正直、僕はちょっとアナーキーにやってしまったところがあって。

西山:それ聞きたい。笑

平野:1代目の山阪さんが築いたクリエイティブディレクター像がまずあって、それを、天宅さんと僕とで更新はしてきたんだけど。たとえば、自分たちの手を動かすことの意味はあまりないなという考えに変わってきました。

―できるだけ自分でデザインはしないと。

平野:そう、僕らが手を動かしてデザインをつくったとしても、その場かぎりで、受け継がれないものになってしまう。それよりは役所のみなさんにデザインを一つの手段として使うことを意識してもらって、これからも自分たちのプロジェクトに能動的に取り組めるように調整する存在なのかなって。デザインやクリエイティブという言葉は一言では定義しにくい曖昧な概念なので、相談してくれた方々が一緒にプロジェクトを考えたり、体験したりしてプロセスの構築や論理的思考、発想の切り替えなどの重要性を感じてもらう機会になったらいいなと思います。

―いいですね。けど、うまく伝わるものですか。

平野:うーん、難しいところもあります。相談の場に来られてる担当者さんレベルではわかってもらったとしても、それを各部署に持ち帰った瞬間に全然通らない話になることも多くて。クリエイティブの現場でいえば当たり前に通るようなことでも、ここではまったく通らないこともある。たとえば、現場を見ておきたいと思って、1年目とはわりと現場に話を聞きに行ったりもしてたんですけど、役所の人からすればその意味がわからないと言われることもあったり。今でも行きたい! とプッシュはしますけど。


平野さんが企画立案から関わって、クリエイティブディレクションまで手がけた、神戸市教育委員会との『神戸の給食レシピ』本は書店で平積み。もちろん、そうした成果をいくつも出している。

―企業との仕事でも、クリエイティブな話を理解してもらうのが大変というのは、よくある話です。

平野:なんだけど、やっぱり、クリエイターのまったく未踏な領域がまだまだ行政にはあるなと。そこでストレスを感じちゃう人も多いだろうなと思います。

―平野さんはストレス問題はなかった?

平野:どうですかね…。僕はわりと意識的に上司とか関係なく、よくないことはよくないって言っちゃうので。ただ、いろんな立場の人が集まっている場で否定しちゃうと結果的にコミュニケーションの精度や企画自体の質が下がる可能性があるので、基本的には尊重しあって、論理的に話すように心がけます。クリエイティブディレクターという立場だからって、というか、立場だからこそ、「全然よくないっすね」とは言えない。

―当然、そうですね。だと、フィニッシュが甘くならないですか。

平野:結局、個人として受けた仕事なら、誰に何をお願いするか、までを自分で考えて動かせるけど、クリエイティブディレクターの仕事はそうじゃない。どこかで自分の手を離れて、担当者さんなり事業者さんなりにおまかせすることになるので、どんなプロセスを描いたとしても、最終的に違うものになってしまうこともあります。

けど、市として担当部署が発注したものは、発注を決めた時点で、僕ら神戸市に責任がある。なので、そのチームでやる最大化はどこなのかという風に考えています。その上で、市民サービスとしてどう還元できるか。個人でやってるときより、よほど頭をつかってる気がします(笑)。

―残り1年もないですけど、この経験から意見できることはありますか。

平野:どうだろう。正直、満期までわからないまま終わりそうな気がする。まず、他の行政体との比較ができないので、何を言っても神戸市の特性ありきの話になりそうで。行政におけるクリエイティブ、デザインを議論するなら、もっとクリエイティブディレクターみたいな立場が全国に氾濫して、その立場の人たちがお互いに刺激しあったり、批評しあわないと次のフェイズが見えてこないんじゃないかな。


案件によっては、プロポーザルの仕様をつくること、公募の審査員を務めるのもクリエイティブディレクターの仕事。若者と農漁業者の連携を目指すプロジェクト「ノーギョ・ギョギョ・ギョギョー ラボラトリーズ」(右のチラシ)では、平野さんは、勢いあまってプログラムディレクターまで担当した

 

|これからどうしていくか

 

前例なく始まった市役所内のクリエイティブディレクターという役職だけに、まだまだ流動的なところも多い。聞けば、4代目となる西山さんを選考する際には、平野さんはまったく関わっておらず、それぞれの代と年度ごとにやり方が模索されていくのだろう。そして、平野さんにとっても西山さんにとっても、クリエイティブディレクターを務めることで自身のクリエイティブへの影響も少なくない。


―平野さんはまだ30代だとはいえ、グラフィックデザイナーとしての経歴が長くあります。

平野:そうですね。グラフィックに関しては、このクリエイティブディレクターになる前から、もう10年以上看板出してやってきたので、デザインの質の担保はできる前提だと思ってます。別府や山形といった地域で活動をして、登壇したり、専門誌などで採り上げられるようにもなってきて、その分野でこのまま楽しく活動できるだろうなと思ってたけど、デザインのビジュアライズによる地域課題の解決ということまでは果たせてなかった。だから、そこをもうちょっとやれたらというのが、僕が2年前に神戸市クリエイティブディレクターに応募した動機でもありました。

―グラフィックをつくるだけではない、デザイナーとしてやれることを探して。

平野:そうですね。そこが何かあるかなと。実際にクリエイティブディレクターとしての仕事をやってきて、すごい数のいろんな球(相談)に対応してきたので、そこはむちゃくちゃ鍛えられたと思ってます。たぶん、同業者の方でもこういう経験はなかなかないと思う。それをまたこの先、還元できるところを見つけていけたら。

―これからも行政まわりのデザインに関わっていきますか。

平野:さっきも話したように、神戸市を見ただけでは何も言えない部分がある。だけど、行政デザインの専門家には絶対になりません。

―クリエイティブディレクターの任期終了後、具体的になにか決めてますか。

平野:このまま神戸に腰を据えようかなと思ってます。僕、どこでもいいんですよ。

―神戸が気に入ったとかではなく?

平野:どこでもいいって、悪い表現になっちゃったけど(笑)、僕はどこに行っても、異邦人的に楽しめるという意味で。けど、神戸のデザインをしてる人だと周りから見られることも増えてきて、だったらもう、拠点は神戸にしてやってみようかなと。

―クリエイティブディレクター就任を機に神戸に移り住んできた平野さんが、そのまま神戸に残るというのは神戸にとってはひとつの成果だと思います。西山さんの方は、これからようやくクリエイティブディレクターとしての仕事が始まるという感じですね。


西山:はい、市役所に出社したのも今日でまだ7回目ですから。

―まだ数えられるほど。

西山:平野さんの話を聞いてると、だんだん怖くなってきました(笑)。まだ関わり始めたところですけど、役所でやってる仕事にはほんとに価値があるなと感じているので、それを僕がやってきた広告の手法や考え方を活かして、さらに広く届けられるようにお手伝いしていきたいですね。お役所仕事って言葉がありますけど、あまり親しみを感じないっていうニュアンスだと思うんです。そこをもう少し市民に開いていくようなことができればな、と思います。

―いろんな相談が降ってくると思うのですが、必殺技みたいなものを用意してたりしますか。

西山:なにか考えようかと思ってましたけど、結局、自分の武器はこれです、とやってたら対応しきれなくなる気がしてきて。1時間の相談で解決まで導かなきゃ、って気負ってたんですけど、それは無理なんですよ。だから、それよりも今は即興力を鍛えなきゃと考えています。

 

|クリエイティブディレクターとしての仕事道具


こちらは平野さんの必需品。打ち合わせで次々ともらう資料をはさむバインダーはアメリカ製。ぺんてるのサインペンはその場でラフを描いたりするのにも使う。常に黒とオレンジの2色を使用。オーラルケアも相談案件が続くとき用に。「口の中がどんどん乾いてくるので、スキをみてうがいをしてしのぐ」とのこと。